社内報のつくりかた
2021.02.03
目次
校正・校閲で最も皆さんがミスするのは、商品や人の「名前」と業績やマーケットの「数字」です。
これだけは、印刷物なら間違えると必ず刷り直しになります。
この特に注意が必要な「名前」「数字」を校正・校閲作業時の留意点を解説していきます。
2011年に公開された映画「ツレがうつになりまして。」で主人公のツレ(ご主人)が、お客様からのクレームの手紙にある自分の名前である「高崎」をみて、「髙崎」と名前の間違いを指摘するシーンがあります。
「お客様。私の名字のタカの字は、『くちだか』ではなく、『はしごだか』の髙なのです」
すると、お客様は、少し怒りながら、こういいます。
「そんなことは関係ないだろう」
そうすると、主人公は、このように答えます。
「関係あります。人の名前ですから。間違ってもらったら困ります。私は『くちだか』の高崎ではなく、『はしごだか』の髙崎なのです」
気になった方は、アマゾンプライムビデオで、無料で視聴する事ができますのでチェックしてみてください。
これは、校正・校閲の現場で一番陥りやすいミスです。「はしごだか」の髙崎と「くちだか」の高崎は、外部の校正・校閲者ではどちらが正しいか判断できません。
一方、「はしごだか」の髙は、いわゆる環境依存文字と呼ばれる旧漢字で、通常の変換では出てこない漢字です。そこで、多くの企業では、一般的な社内資料などでは、本人に了解をとった上で、「くちだか」の高で代用しているケースも多いのです。それらの代用した名前で作成された資料を元にして校正・校閲をしてしまうと、ほぼミスを発見することは不可能です。
しかし、映画のセリフにありますように、人の名前ですから間違ってもらったら困るものなのです。時には、その名前そのものが由緒ある漢字であるような場合には、点一つあるなしで大問題になったりします。
例えば、渡辺(わたなべ)という名字でも、先程の環境依存文字である渡邊や渡邉といった文字を使う名字の方もいます。その文字でも、本当は、ここにもう1つ点を入れるとか、この“はらい”はウチではいらない。といった場合もあるのです。
このように名前というものは、実は結構センシティブな情報を含んだものです。ですから、必ず早い段階で本人に確認をすることが重要です。場合によっては、点や“はらい”を加減削除した文字を作字することも必要になります。
ワードでは表現することができない漢字を使った名前の場合には、デザインをする時点で、必ずデザイナーに作字の指示をしなくてはなりません。
作字した時には、PDFなどで正しく反省されない場合もありますので、そのままではチェックできないケースもでてきます。その際には、校正紙や色校正を本人にみせてチェックしてもらいましょう。
このような漢字の名前で注意しなくてはならないのは、人の名前の他にもあります。
・地名
・会社名
・団体名
・歴史上の人物
・城の名前
上記の名前にもしっかりと注意していきましょう。
次に漢字以外でも注意しなくてはならない名前があります。それは英語を含む外国語です。あまり見慣れない言語ですから、間違いがあっても気がつかないケースがほとんどです。英語はアルファベットのみですが、フランス語やドイツ語、イタリア語、ロシア語などは、アルファベットとは別に各々の特殊文字があります。
これも本人確認をしていただく必要があります。
さらに注意しなくてはならないのは、名前の読みです。カタカナで表す場合に、濁音(だくおん)=「゛」、半濁音=「゜」、撥音(はつおん)=「ン」、促音(そくおん)=「ッ」、拗音(ようおん)=その他の音と「ャ」「ュ」「ョ」を加えた発音がありますので、どのような表記・表現が適切なのかを選択してもらうことが必要です。
また、弦楽器のViolinのような「V」の音が入る名前の場合、「ヴァイオリン」とするか「バイオリン」とするかなどの表記統一も必要です。
このような時には、同じスペルの名前が、過去どのように表記されてきたかを検索してみればよいと思います。実際の発音とカタカナ表記されているものが微妙に異なる場合もありますが、日本国内では、その方が自然であるとされているケースもあります。そのような実例も上げながら、本人確認をしてみると、意外とスムーズに確認ができるでしょう。
取材などで、直接本人に確認できない時には、その窓口となっていただいた方にチェックしてもらいましょう。そうすれば、直接本人から返事をいただけなくても、名前のチェックをしたということで、責任の所在が明らかになります。
このような基本動作を身につけておくと、名前が違うといわれるミスは、ほぼ防ぐことができます。そうすれば、かなり安心して他の部分の校正・校閲に取り組むことができると思います。
数字は間違ってもらったら非常に困るものです。
なぜなら、数字は名前と同じで正しいもの以外は全て間違いだからです。
数字は0から9までの10個の文字の組み合わせですから、チェックするのはそんなに難しくはないでしょう。ただし注意しなくてはならないことがあります。
それは「単位」です。企業の業績を示す場合、千円単位か、百万円単位かによって、同じ数字でも1,000倍の違いになります。ですから原稿にある数字を資料と付き合わせてチェックする際には、その数字の単位を確認することも大切です。
更に単位によっては、換算する必要が出てくる場合もあります。
例えば、海の長さの単位である海里は、地球上の緯度の1分に相当する長さで1852mです。国際海洋法条約で定められている領海は、海岸の基線から12海里とされていますが、これを換算すると、約22.2キロメートルということになります。このように独特な単位が使われている資料を元に原稿をチェックする時には、一般的に使われているメートル法等に換算した方が、数字の間違い等に気がつきますので、必ずやってみましょう。
同じ様に換算した方がよいのが、為替です。ユーロやドルなどは、ニュース等でもよく流れているので、概ね円に換算してどの位というのは見当がつけられますが、それ以外の外国通貨の場合には、原稿で表記する必要性がなくても、一度換算して原稿の内容に適した数字であるかどうかを確認してみましょう。
これは私の過去の経験ですが、英文の資料を元に原稿のチェックをする際に、「Billion」と「Million」を読み間違えてしまいました。
「Million」は百万なので、日本でもよく使われる単位なのですが、「Billion」となると10億となるのです。MとBは注意していないと、意外と読み間違えてしまうものなのです。このように「Billion」と「Million」を間違えたことがありました。
他には10億という単位は、日本ではあまり使われていないことから間違えたこともありました。日本では、億と使って数字を表現する場合は、●億というのが一般的です。ですから、注意しないで数字を眺めてしまうと、見慣れない英文の資料の中で、「Billion」を10億とは換算しないで億と換算してしまったのです。
たかが数字、されど数字です。このようなさまざまなポイントをみて、間違いがないかどうかをチェックしてください。
原稿の内容も含めた校正・校閲をするために、書かれている内容の最新情報を必ず確認しましょう。
人の名前では、部署異動や昇格などによって肩書きが変わっていることがあります。
異動予定がわかる場合には、その肩書きに合わせるようにします。
数字についても、最新情報で更新されていれば合わせるようにします。また、参考にしているデータや統計などが1年以上前のものであれば、最新のものがインターネットなどで公表されていないかどうかも確認しましょう。そして、原稿に書かれている内容と最新のデータや統計の結果に、齟齬がないかどうかもじっくりとみておくことが大切です。
市場が拡大していると原稿では書かれているが、最新のデータや統計では横ばいになっていたとすれば、その表現がそのままでよいのか、多少でも表現を調整した方がいいのかを判断します。
さらに5年毎位に調査している国のデータや統計に関しては、最近のその他のデータや統計を調べてみて、その期間内に傾向が変わっている場合もありますので、同様に表現の調整をすべきかを判断します。
さらに最新情報で見ておきたいのは、原稿で書かれている内容と最近のメディアの報道で、全く別の方向の意見が出ていないかどうかという点です。別にメディアの報道におもねる必要はありませんが、そのような意見が出ていることに対する対策を考えておく必要があるでしょう。
例えば、原稿の中では、太陽光発電について詳しくその優位性を説明していたのに対し、メディアの方から太陽光発電の経済性などについて疑問符を打つような報道が出た場合、報道の内容を踏まえて、その反論をさりげなく付加したり、その報道の内容を加えて、そのような意見もあることを紹介したりするようにします。
そうすることで、原稿の内容に厚みが増すばかりではなく、メディアの報道をみた社内外の指摘に備えることもできます。
この辺までくると、校正や校閲の領域を飛び出してしまうかもしれませんが、時間があるのであれば、このように広範囲のチェックをしてみましょう。
校正・校閲といえば、単純に資料との突き合わせをしていく、単純で退屈な作業のように語られることが多いものです。しかし様々なチェックポイントがあるばかりではなく、最新情報と見比べて、原稿の内容が現在の状況に即したものになっているかどうかまでみていくと、実に深い部分までを含んだ編集作業の重要なパートなのです。
※この記事は過去の記事を加筆したものです。
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