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2018.12.14
インターネットなどの発達によって正確な情報がすぐに伝わる現代では、それに伴って意思決定の速さも求められるようになっています。これまでのようなカリスマ社長によるワンマン経営では意思決定が間に合わないため、現場の担当者による判断がより重要になってくるのです。組織内における意思疎通の効率化や生産性を向上させるためには組織作りが重要ですが、うまく進まないという悩みを持っている管理職の人も多いでしょう。
組織作りにおいて重要な考え方の1つに「連結ピン」と呼ばれるものがあります。そこで、この記事では「組織作りに欠かせないといわれている連結ピンとは何か」について紹介します。
連結ピンは米国の組織心理学者であるR.リッカートが考えた概念です。
企業の組織作りにおける連結ピンの意味とは、人と人、人と組織、組織と組織といったグループを結びつける能力を持った人のことを指します。
連結ピンとしての役割は役職の低い人よりも、管理職のようなある程度役職の高い人のほうが重要です。なぜなら、管理職になると自分の担当部署の状況把握はもちろん、他の部署との調整を行う機会が増えるからです。役職の低い平社員のうちは、せいぜい人と人を結びつける機会しかありませんが、管理職になると人と組織、組織と組織を結びつける機会も増えていきます。そのため、連結ピンの考え方は管理職のような上位マネジメント職においてとくに重要となります。
企業は大きくなればなるほど、役職や部署の数は増えていきます。それらの数が増えるほど会社として利益を上げるチャンスも増えるのは間違いありません。しかし、その分、各担当部署や役職者間の間で意思疎通が難しくなるといった点はデメリットです。インターネットやSNSに代表されるネットワークは驚異的なスピードで進化しており、昔と比べると情報伝達のスピードは格段に速くなっています。このような状況において意思疎通の正確さやスピードはとても重要になっており、連結ピンと呼ばれる人の役割もとても重要視される時代になっているのです。
連結ピンとしての役割は、企業の利益に直接関係のあるものばかりとは限りません。時には、若者の離職率を下げることによって、間接的に企業にメリットをもたらす場合もあります。
『平成20年版 労働経済の分析-働く人の意識と雇用管理の動向-』 「第2章 働く人の意識と就業行動」という厚生労働省が調査した資料によると、若者世代の離職理由の1位は「仕事が合わない」でしたが、2位は「人間関係が良くない」でした。しかも、人間関係が良くないことを離職理由として挙げた人は、男女ともに多いという特徴があります。
また、仕事上の悩みとしてセクハラやパワハラなどを含む「職場や人間関係」を挙げる人が多いです。セクハラやパワハラといったハラスメントはニュースで取り上げられるようになって社会問題化してきているものの、実際の職場ではいまだになくなっていないことがわかります。これらのハラスメントは若者が早期離職する要因の1つです。
上司と部下の上下関係が昔のように線引きされて、社員の自由な意思が尊重されない社内環境では若者の支持を得られません。役職についている人は年配者であることが多いので、新しい時代とともに現れてくる社風に自身も変化させることをためらう人もいるでしょう。そのようなときこそ、若者と役職者をつなぐ連結ピンの役割を果たせる人が大切なのです。
一般的な日本企業は、トップ、ミドル、ロワーの3段階から構成されると言われています。
管理職はそのなかでもミドルにあたる部分であり、トップとロワーの間をつなぐパイプ役だといわれることも多いです。ただし、連結ピンとしての重要な役割は、伝書鳩のようにお互いの意見をそのまま伝えるものではありません。一般的に経営者は長期的な視点から物事を考えており、現場に出す指示もその考えに基づいて伝えられます。一方、現場の担当者は目の前の顧客からの要求に答えることが重要で、ときには経営者からの指示が無謀だと感じるものです。
どのような組織であってもこのようなジレンマは少なからずあるもので、経営者からの言葉をそのまま現場に伝えただけでは、部下に気持ち良く働いてもらうことはできません。頭ごなしに「上司が言っているから、言うとおりにしろ」と言っても、納得していない部下のモチベーションは下がる一方でしょう。
連結ピンとして機能するために重要なのは、どうして経営者がそのような判断を下しているかを自分なりに咀嚼して、論理的に部下へ伝える能力です。また、部下の不満が一理あるようであれば、それを黙殺することなく上司に対して「提案」という形に変えて伝えるなど、人に配慮できる能力も重要だといえます。
アメリカの組織心理学者R・リッカートの提唱する連結ピンについて深く理解するためには、まず4つに大別した組織のシステムについて知っておくべきです。
1つ目の組織は「独善的専制型システム」で、いわゆるワンマン型の上司が組織を支配している会社のことを指します。このシステムの特徴は、部下の意見をくみ取ることをまったくしないで、すべてトップダウンで案件をこなしてしまうことです。業務をマニュアル化しやすく成果主義に向いているというメリットはありますが、部下と上司のコミュニケーションや、部下の能力をいかす機会が少なくなります。そのため、部下のモチベーションが低下しやすい点はデメリットです。
2つ目の組織は「温情的専制型システム」です。このシステムの特徴は、上司が部下に対して親子関係にも似た温情をかけて接する点にあります。「悪いときは叱り」「良いときは褒める」といったアメとムチの使い分けができるので、成果主義の会社には向いていると考えられます。ただし、基本的に上司は部下を子供として認識するため、どうしても格下扱いから抜け出せません。そのため、ちゃんとしたコミュニケーションは難しくなるうえ、上下関係がしっかりしている分、他の部署との意思疎通も困難になるといった問題があります。
3つ目の組織は「参画協調型システム」です。このシステムの特徴は、上司と部下の間が「尊敬」や「信頼」といった深い絆で結ばれており、しっかりしたコミュニケーションがとれていることです。部下の意見も積極的に取り入れるので、人材の育つスピードも速くなりますし、モチベーションも上がります。ただし、経営に関して重大な案件について未熟な意見を取り入れるわけにはいきませんので、比較的簡単な案件に対してのみ意見を採用します。
4つ目の組織は「民主主義型システム」です。このシステムは、さまざまな意思決定をメンバー全員で行っていくことが特徴です。経営に関する重大な案件についても全員参加で決めるので、上司が部下に対して強い信頼を抱いていないと成り立たないシステムだと言えます。メンバー全員に決定権があるので、上司や部下だけでなく、同僚同士のコミュニケーションも活発になり組織全体が活性化するといったメリットもあります。
気を付けなくてはいけないのは、現場の状況を深くまで理解していない上司や、経営のことなどまるで考えない部下がいるときです。全員一律に決める権利があるので、きちんとした方向へ導かないと経営が悪化してしまう危険性があります。そのため、連結ピンとしてしっかり機能する人の役割がとても重要だといえます。
企業の社風はそれぞれですが、どのような社風であったとしても上司と部下をつなぐ連結ピンとしての役割を持った人はとても大切です。
例えば、独善的専制型システムでは部下の意見を聞かないことによって、現場に無理が生じている可能性があります。そのような時に、どうやって上司に対して部下からの意見を提案に変えて聞き耳を立ててもらうかという能力はとても大切です。温情的専制型システムでは部下からの意見をしっかりとくみ上げる力や、他の部署との連携をしっかりととれる力が大切になります。
参画協調型システムについては部下からの意見をしっかりと聞き入れますが、どのラインまで任せていいのかという上司としての判断が重要です。時には、会社の利益に大きくかかわる案件だからという経営者的な目線で判断しなくてはいけないケースもあるでしょう。民主主義型システムでは全員の意見を尊重しつつ、間違っている点があれば正しい方向へ導く力が必要です。
4つの理論にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、一概にどれが良いシステムかというのはありません。しかし、連結ピンとしてうまく機能する人がいれば、メリットはそのままでデメリット部分を消す働きが期待できるでしょう。上司と部下の両者を上手につなげる人物の育成が、効率的に利益を上げていく企業になるためのカギだといえます。
企業のシステムは会社によってそれぞれであり、業種によって向いているシステムもあるので、すぐに変えることは難しい場合もあるでしょう。
どのシステムにもデメリットはありますが、連結ピンとしての役割を果たす人物がいれば、デメリットは少なくなります。また、企業として安定した利益を上げていくためには、若い人材の育成が大切です。連結ピンとしての機能にはハラスメントを防止し、若者の離職率を下げて間接的に企業に対して貢献するという役割もあります。
連結ピンの役割を果たす人は安定した職場づくりには不可欠なので、ある程度の年数を務めた管理職候補の人には積極的に研修などを受けさせてみてはいかがでしょうか。
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